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2012年2月26日 (日)

「私」‥21

最近の「オレオレ詐欺」のことを少し考えてみます。「私」の問題とどう関係あるのかと言えば、
「オレ」とは「私」の別称であり、この詐欺は他人の「私」になりすます騙(かた)りです。それは
れっきとした犯罪ですが、この犯罪者は他人の「私」にどう化けるのか興味が湧くからです。
知られる通り、多くの場合お年寄りを狙ってその人の孫に化けようとします。父親、母親なら
息子の声音(こわね)の区別はつきますし冷静さもありますから、お祖父さんかお祖母さんを
狙うことになるわけでしょう。事実、我家にも二度「オレオレ」の電話があり、妻と娘が受けてす
ぐ感付きましたので被害は受けませんでした。
犯人がなりすます対象は大体が十歳代後半から二十歳台後半の男とはいえ会ったこともなく、
ただ名前と年齢はほぼ把握していている場合がほとんどのようです。従って犯人自身にとって
は、ある若い男をイメージして孫を演じるということになります。電話の相手のお年寄りの錯覚
を期待し、いわば錯覚に賭けて、声で演じるわけです。これはテレビの映画やアニメの声優の
心理状態とまったく近いと言えそうです。主人公に感情移入し、心をこめて訴えかけます。
「おじいちゃん、オレオレ!困っちゃったよ、なんとかしてよ。150万円がいるんだよ!‥‥」
お祖父さんはこの名演技を疑いもせず、すぐお金の工面をしてやろうと銀行に向かいます。
犯人はこの電話のやり取りにおいて、お年寄りの反応を感じ取ろうと神経を研ぎすますはず
です。少しでも疑念のニュアンスがあれば実行を断念するでしょう。またあまりにもスムーズに
行き過ぎても不自然と感じるでしょう。お年寄りにとって、突然の孫のピンチの話にうろたえるの
が普通でしょうから。
‥‥とにかく犯人は他人の「私」になり切るわけです。お年寄りの相手との「心の交流」に専念
し、すっかり信用(!)されれば詐欺は成功です。
‥‥そしてここで「私」の一つの意味が浮かび上がります。それは「私」を名乗る者は相手に
とって他の誰でもない、特定の「太郎」、「正夫」だということです。つまり「私」は自分一人で
はまだ成り立たず、相手に認められて成り立つという面があるということです。
逆に、私一人で一生懸命「私」が何なのかを知ることの難しさはこのへんにあると言えそうだ
ということです。

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