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2013年8月27日 (火)

「ハチ」‥2

 「カウンターへ座らしまへんか」と声をかけられたものの私は最初は「いや、こっちでいいです」と断りま

した。「食い物の恨み」とは言いますが、やはり露骨な“格差”を最初に付けられた記憶が残っていて、自分

が常連のような側に、つまり“ファミリー”的なものの中に入ることへの抵抗感があったからです。それと私

は一人でゆったりとジャズを聞きながらほろ酔い気分に浸れればそれだけで十分満足だったからです(店内は

すばらしい音響空間だったのです)。ところがその次に「ハチ」に行った時に、今度は最初からカウンターに

案内され、さすがにそれは断りようがなくカウンター席に座ったのです。56人が並んで座れるくらいのカウ

ンターで、その時気が付きましたがカウンターの背中側にも小さなテーブル席が二つあったのです。夜7時台

の早い時間では常連もまだ少なく、一人が座っている程度でした。私はカウンターの右端の入口に近い席で、

目の前にアンプやプレーヤーが見えてマスター(“お兄ちゃん”と呼ばれていた)がLPレコードをかけ替え

るのを眺めながら飲んでいました。時々ママさん(ハチママと呼ばれた店のオーナー)がカウンターの横

に来て、私がどういう種類の会社のサラリーマンかなどさり気なく聞いたりするのでした。私はそんなこと

よりも今聞いているジャズが誰の演奏の何という曲なのか、いわばジャズ音楽の“taste”(味わい)

の話をしたかったので、「このテナーサックスの音色はいいね」とか「このピアノのタッチは独特じゃない

ですか」とか話しかけてもハチママやお兄ちゃんは「‥‥‥」とほとんど無反応です。返事のない話くら

い虚ろなものはなく、やがて私は白けた気分で黙る以外ありませんでした。要するに私はこの店の“しきた

り”を知らず、カウンター側に座る者の“振る舞い方”も何も知らない“新入り・ど素人”だったというわ

けです。少しジャズをカジッたくらいで、知った風な口を利くには10年早い、ということだったのです。そ

うと直接言われはしませんでしたが、「‥‥‥」が文字通り“言わず語らず”教えていたのです。もちろん

後々には“taste”の話もするようになっていくのですが、それは「ハチ」の雰囲気に馴染み、肩の力も何も

入らない中で“飲みながらの雑談”として、ほとんど意識もされずに交わされていくものだったのです。

 それともう一つ、黙っていても食べ物、ツマミが次々と出てくるのです。私がすればいいのは自分のボト

ルのウィスキーで、グラスに氷や水を注いで自分の水割りを作ることだけだったのです。‥‥そうこうする

うちにいつしか常連客が56人に増えてきて、カウンターや後ろの席で飲んでいます。大概の者が、市内

に職場があるサラリーマンや自営業者で、年齢は20代から30代が多くたまに古顔の常連で40代がいると言う

顔ぶれでした。そして常連は誰もがアダ名か通称で呼ばれていたのです。

<最近のCDジャケットはこんな具合です。楽天の広告ではありませんよ>

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コメント

こんにちはsun
夜は寒いくらいに成りました。
今は晴れているのでこれから暑く成るのかな(*^_^*)
初めからカウンターで話よりもジャズを聴きたい楽しみたいって思っていたのですね
あだ名皆空さんはどう呼ばれてたのかな~
flair若い頃のようですので○ちゃんって感じですか(o^-^o)
ちぐさの感想は、やはりジャズ好きな方が聴きながら話すのではなく
なにかを一人でしていたり。音楽に浸りたいって感じを受けました
好きな人はそうでしょうね♫
また次回楽しみにしています

今日は。
晴れてますが、気温は酷暑ほどでもないですね。来週はもう9月ですから。
「ジャズ喫茶」は日本では基本的に学生の文化のものでした。お金はないけ
ど、時間は有り余っていて、それでいつも何かに飢えている。そういう精神を
ジャズは癒やす作用があったのです。理由は色々あったんでしょうが。今の
ようにパソコンや携帯もなく、小型テレビもまだ普及してませんでしたから、
あるのはラジオだけでした。当時はFMだけではなく中波局でもジャズを流し
てましたから、自然にジャズには馴染んだんでしょうね。もちろん好き嫌いが
ありますから、フォークやロックの方を好む者も多くいました。
この学生のジャズ文化が消滅してしまったのは私には不思議でしょうがあり
ません。と言うか逆で、あの10数年間の隆盛の方が奇跡的だったのかもしれ
ませんね。shine
そして「ハチ」は当時から学生を常連には入れませんでした。恐らく他のジャズ
喫茶のように学生頼みでやっていたらとっくに閉店していたでしょうね。ハチマ
マの先見の明や恐るべしです。flairsign01

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