« 「ビットコイン考」 | トップページ | 「品定め」‥7 »

2014年3月 5日 (水)

「品定め」‥6

馬頭は今度は“指喰いの女”の話をします。指喰いとは指に噛み付いたという意味です。「私がまだ下っぱの頃、

通っている女がいまして、顔はまあ十人並みで特に連れ合いにしようとも思っていなかったのですが、何かとこ

んな私の身の回りの世話を焼いてくれ私に嫌われまいと一生懸命化粧をしたり精一杯気を使ってくれたりするの

で悪くはなかったのですが、ただ一つ大変嫉妬ぶかいのが難点でした。当時思いましたのは、むやみに私の言い

なりになってビクビクしているものだから、少し懲りるくらいの目に合わせればこの焼きもち焼きの癖も直るだ

ろうということでした。それでわざと冷淡な様子にして、あまり嫉妬がひどければそれで縁を切ってしまいそう

なそぶりを見せてやったのです。すると例のように腹を立てて恨みがましく言い出したものですから、『そんな

に我を張りいいかげんな邪推をするのなら、もうこれきりで別れるしかないだろう。たとえ宿縁の深い仲だった

とは言えもう二度と逢うまい。‥‥もし行く末永く連れ添うつもりなら、恨めしいことがあろうと少しは我慢し

て、変なひがみ根性さえ捨ててくれればどれほど愛しいと思うことか。私だってもう少し出世して一人前らしく

なれば、そなたに肩を並べる女はそうはいないということにもなるのだ』などと、我ながらうまく訓戒したもの

だと思ったのですが、女は薄笑いをして、『これまで、みすぼらしくうだつの上がらないあなたに辛抱して、そ

れでもいずれ人並みに出世する時もあろうと待つことに焦りもありませんでした。けれどあなたの薄情な心を我

慢していつになったら直るのかと、あてにならないことをずっと頼みにしてきましたが、もうこれ以上年月を重

ねるのはほんとうに辛いことになりそうですから、この機会に別れる方が、お互いのためにいいのでしょうよ』

といまいましげに言うものですから、こちらもカッとなって憎まれ口を散々叩きましたところ、女も黙っていら

れぬ性分で、私の指を一本掴んで噛み付いたのです。私は『こんなことをされて、あなたが馬鹿にする官位を務

めることもできやしない。もうこうなったら別れるしかない』と指を曲げたまま引き上げようとして、

《手を折りてあひみしことを数ふれば これひとつやは君がうきふし》(指を折って逢っていた間にあったこと

を数えてみると、あなたの悪い癖はこれ一つばかりじゃない)と言い捨てますと、さすがに女も泣き出して

《うきふしを心ひとつに数えきて こや君が手を別るべきをり》(辛いところを胸一つにおさめていつも我慢し

てきましたが、今度という今度はあなたとお別れしなければならないのでしょう)などと言い返すのでした。

‥‥まだこの話は続くのですが、痴話ゲンカのクライマックスで和歌を詠み合うなどとは、今の基準で考えると

まったく現実離れしていて“昔はケンカも悠長なものだった”と見たら間違いです。これがこの時代の物語の物

語たる特徴で、紫式部も和歌にこそ哀れみの情が最も端的に表わされると確信を持っていたようです。それと馬

頭が語っているので、男優位の形に見えますが、男の身勝手も程を知らないと恥なのだと、示す狙いもあるよう

なのです(正直私もピンと来ないのですが)。

 

34日にカルチャー教室の「鎌倉の魅力散歩」に臨時参加しまして、大蔵稲荷~永安寺跡~瑞泉寺まで

歩きました。美術史家の先生の説明もあり、なかなか味わいのある鎌倉散歩でした>

18_2 23

45

67

910

« 「ビットコイン考」 | トップページ | 「品定め」‥7 »

心と体」カテゴリの記事

コメント

こんにちは☃
こちらは雪が降ってます(・。・;
でも積らないんだろうなぁって勝手に考えてますけれどね

昔は離婚は禁物ってイメージが強くて痴話げんかも無い様な感じが
あたまの中では有りましたけれど
夫婦仲今も昔も変わらないって思いますね
痴話げんかが和歌を詠むという所位でしょうか

皆空さんも奥様と喧嘩した事が有るのですか~coldsweats01

今日は。
昔は人間の回りの社会的・経済的(特に経済的)な基盤が脆弱でしたから、
簡単に離婚ができなかったんでしょうね。離婚の危機場面は同じ程度にあ
ったと思います。したくても簡単にはできなかったというのが実情だったの
でしょう。最近は(少なくても日本では)、社会の安定、生活保障、戦争と無
縁、不況とはいえ好労働環境、‥‥一言で言えば「平和な社会」が実現し
たために、離婚も簡単になったと言えます。thinksweat02
私がヨメさんと喧嘩したかって?‥‥フ~ム、その気になれば朝から晩ま
で喧嘩になります。annoysign01
最近特にヨメさんという他人の行動一切が理解不能の観を強く持つように
なりました。もうその一挙手一投足が何故そうなのかワケが分かりません!!!
‥‥30年以上もよく一緒にいたもんだと感心しています。夫婦は所詮は赤
の他人同士なんですね‥‥こう言いますと離婚寸前に(悲観的に)聞こえ
るかも知れませんが少し違います。‥‥この間の“絆”のせいで踏み止ま
っているんでしょうねcoldsweats01sweat01

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1627554/55249965

この記事へのトラックバック一覧です: 「品定め」‥6:

« 「ビットコイン考」 | トップページ | 「品定め」‥7 »