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2014年5月13日 (火)

紫式部のブラックユーモア(3)

今度は命婦の手はずの良さによって、源氏は御簾(みす:すだれ)を隔てただけの隣の部屋まで招き入れられた

のです。今をときめく源氏の君の訪れを、突然のこと(実は命婦が仕組んだもの)とはいえ、うろたえて挨拶も

せずにお引き取り願うなどとんでもないことと、命婦と姫君お付の女房たちは内気な奥ゆかしさで後ずさる姫君

を無理やり御簾の前に押し出したものの、姫君は源氏の話しかけに対して声を上げることもできず黙っているだ

けなのです(命婦から、返事はしなくてもただ聞いているだけでいいからと諭されたのです)。源氏の方はと言

えば、御簾の向こう側の奥ゆかしい姫の気配に、やはり予想通りだったと実に感じ入っていたのです。これま

の間、何度手紙を出しても返事もこなかったので、こうして目の前で話しかけてもなおさら答えがないのも止む

を得ないことなのかと、ため息を付いて、

《いくそたび君がしじまに負けぬらん ものな言ひそといはぬたのみに》(いったい何度あなたの沈黙に私は負

けたことでしょう。あなたが物を言うなと仰らないのを頼みにこれまで訴え続け申し上げてきたのですよ)と

るのでした。‥‥今の感覚で言えば、“黙っている我慢比べ”をしているような具合とでも言うのでしょうか、

それにしてもここまで無反応とあっては白けてしまうものではないでしょうか。

‥源氏も「本当に私のことが嫌なのであれば、嫌とはっきり言い捨ててください。どっちつかずというのは堪え

られません」とまで仰ると、姫君の乳母の子で乳姉妹となる侍従(じじゅう)をしている若女房が、もう焦れっ

たくなって見るに見かねたあげく姫君のお側に近寄り、

《鐘つきてとぢめむことはさすがにて こたへまうきぞかつはあやなき》(鐘をついて、もうこれで終わりとば

かりに、あなた様のお話をお断りすることはさすがにできかねますが、お答えしにくいのもまたどうしたわけな

のか自分でもさっぱり分からないのです)と、姫君本人が仰っているかのように申し上げたのです。源氏は急に

若やいだ声で、しかも珍しい返事がきたのでいささか面食らって、

《言はぬをも言ふにまさると知りながら おしこめたるは苦しかりけり》(何も仰らないのは仰る以上に、私を

思ってくださっているのだと存じましたが、黙ってばかりいらっしゃるのは本当に辛いものでしたよ)と少しホ

ッとして、あれこれなだめ言を言ったり、取りつくろったりして話かけるものの、やはりはかばかしい返事がか

ってこないのです。

‥‥ここまで読むと、源氏が簾を挟んで目には見えない腹話術人形を相手にしているような滑稽さまで出てきて

まうものです(‥そして何度も言いますが、こんな場面で和歌を詠み合うなどまったく非現実的ですが、心

描写としてこに優る表現技法もまたなかったのです)。

 そして源氏の君も、こんなことはとても普通ではなく、とは言えこのまま引き退がるのもいまいましいので、

ええいままよと、ふすまを押し開けて姫君の部屋の中に入ってしまったのです。命婦や若女房たちは予想外の成

り行きに驚愕しながらも、高貴な源氏のお方とてお咎めするわけにもいかず、すばやく自分の部屋に引き込んで

しまい、ただこんな場合の心構えも何もない姫君の身を案じるばかりなのでした。

‥色恋物語とは言え、この時代に現代のような露骨な性描写が展開されることはありません‥‥姫君は恥ずかし

くて身がすくむばかりで、ただ無我夢中でわけが分からない有様で、源氏の君は「これまで男女の情けも知ら

大切に育てられてきた方だから」と大目にごらんになるものの、なんとも合点がいかない風にいささか落胆し

て、姫君の様子にもどことなく労(いたわ)しさを感じたのでした(とは言っても真暗闇の中で顔の表情など分

ないはずですが)。そしてまだ暗いうちにそっと忍ぶように屋敷を出て行くのでした。命婦は、どうなった

とやらと目も冴えて聞き耳を立てて横になっていたのですが、知り顔をお見せするのも禁物と思って、女房た

お見送りを‥」と声をかけることもしなかったのです。‥源氏は自分の居所の二条院に帰り着いて横にな

たものの、あれやこれやのことが頭によみがえって思案に乱れながら、気の毒な姫君の身分柄を思いやり、や

りこれは軽く考えてはならないことだったと、まんじりともしないまま夜が明けてしまったのです。

‥‥そうこうしているうちに頭中将がお越しになって「ずいぶんごゆっくりのお寝みですね、さだめしわけがお

りになりそうですね」と声をかけてきたのです。

 

<先週末、熱海の病院に入院中の親類を見舞ったのですが、途中の湯河原の海岸沿いでのスナップです。

海はもう真夏の様相でした。海辺の食堂の刺身定食と、アジのたたき定食です。食べている間中ずっとアジ

の尻尾が動いていました>

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コメント

こんばんはnight
そろそろ夏の装い、衣替えの時期ですしこれからどんどん暑くなりますね
とは言え、明日は気温は上がらないそうですので
体調管理して下さいね~
海の近くに有る食堂良いですよね♪
新鮮なお魚が食べられます(*^。^*)
海に行きたくなります(#^.^#)

こんばんは。
もう沖縄は梅雨入りしましたが、本州の方はいつごろになる
でしょうかね。2、3日おきに雨が降るようになりましたからそろ
そろかも知れませんね。雨の日は屋外作業ができませんから
室内で植木の標札作りや農機具の手入れをしたりとなります。
晴れでも雨でもホコリまみれは変わりありません。bearingsweat01

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