« 紫式部のブラックユーモア(4) | トップページ | 紫式部のブラックユーモア(6) »

2014年5月24日 (土)

紫式部のブラックユーモア(5)

 源氏は邸の正門から入る前に邸内にそっと入り格子の隙間から中を覗いてみると、薄暗い部屋に女房が45

っていて、見るからに哀れな食べ物を御前からさがってきて食べているのが見えたのです。皆寒そうにして、

にはふるえている女もいて、「ああ、なんて寒いこと。長生きするとこんなつらい目にも合うのですね‥」な

と体裁も何もなく泣き言を言っているのが聞こえるのです。源氏はいたたまれない気持ちになってそこを離れ、

たった今来たかのように門の格子を叩いて招き入れられたのです。

 今日は若女房の侍従は他所への勤めのため留守で、老いてみすぼらしい田舎じみた女房ばかりで、くすんだ暗

い部屋の灯を明るくすることもしないのです。しかしそれはそれで興趣がありしみじみとした気分をそそられ、

普段とは違う心惹かれる風情があってしかるべきなのに、ここの姫君がただの引っ込み思案で風流気も何もなく、

心栄えがしないことに源氏は落胆するばかりだったのです‥‥。

 ようやく夜が明けてくる気配がして、源氏の君は格子を上げて雪明りに映える前庭の植え込みを見ると、「ほ

ら、みごとな外の朝空の景色をごらんなさい。‥いつまでも遠慮だてしていても楽しいことはありませんよ。」

と尻込みをする姫君を明るいほうへいざない、見ぬふりをして外をながめながらも、しきりに横目を使い、打ち

解け姿の多少でも見まさりするところでもあればうれしいのにと思ったのでした。ところが思わず目に入ったの

は、痩せて丈のある猫背らしい姿とともに、驚くほど長い顔に高く突き出た鼻があり、その先が赤く色付いて

雪より蒼白な顔面から長く伸びている容貌だったのです。そうしてそのめったに見られない有様にほとんど目が

釘付けになってしまったのですが、肩のあたりも痛々しいくらい細く尖っていて、源氏の君は、どうして何もか

も残らず見届けてしまったのだろうかと思うものの、いつぞやの夜の初めての逢瀬の折に、暗闇の中で感じたど

こか不慣れな“違和感”の正体を探り当てたような心持ちになったのでした。

 そして姫君の装束にも目が行き、薄紅色がひどく白茶けた単衣(ひとえ)に元の色目が分からないほど黒ずん

でいる袿(うちぎ)を着重ね、表着は黒貂(くろてん)の皮衣(かわころも)を着ていたのです。それはそれな

りに古風で由緒あるお召物とはいえ、若い女人にはまったく不似合いな装束で、それでもこの皮衣がなければさ

ぞや寒かったのだろうと労(いたわ)しく姫君の顔色をご覧になると、言うべき言葉もなくなり、姫君同様自分

でものを言えなくなったような気持ちになるのでした。

 源氏は、この姫君には自分より他に頼る人はまず居ることはあるまい、こうしてお逢いしたのも何かの縁なの

だから自分としては今後もお付き合いするつもりだが、まだどこかよそよそしく、とりわけあの“ダンマリ”は

どうにかならないものかと思い、

《朝日さす軒の垂氷(たるひ)はとけながら などかつららのむすぼほるらむ》(朝日のさす軒のつららは溶

ているのに、どうしてあなたは池の氷が固く張るように打ち解けてくれないのでしょうか)と声をかけるもの

の、姫君は「む、む」っと重く口ごもって笑うだけなので、いよいよ気の毒な気持ちになってしまい屋敷を出て

行ったのでした。

 そして帰りの車中で源氏は、鼻の先が赤く色付いて寒そうな姫君の顔を思い浮かべるとつい苦笑し、「頭中将

があの鼻を見たら何と言うだろうか。いつも様子を探りに来るくらいだから、そのうちに見つけられてしまうか

も知れないな」と心配し出す始末なのでした。

 

<先日また「古都鎌倉紀行」に参加し、鎌倉幕府始まりの縁の寺「補陀洛寺(ふだらくじ)」と鎌倉幕府

終焉の縁の寺「九品寺(くほんじ)」他を散策しました。海に近い材木座の社寺でした>

12

3文覚上人が開山、頼朝は平家打倒を祈願した

45

6新田義貞が鎌倉攻めの本陣を置いた

78材木座の海岸にあった奇妙な石

« 紫式部のブラックユーモア(4) | トップページ | 紫式部のブラックユーモア(6) »

心と体」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1627554/56302204

この記事へのトラックバック一覧です: 紫式部のブラックユーモア(5):

« 紫式部のブラックユーモア(4) | トップページ | 紫式部のブラックユーモア(6) »