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2014年9月 8日 (月)

「紫の上」‥‥若紫(7)

こうして源氏はさらってきた紫の上(姫君)を養女として自分の手元で育て教育していく態勢が整ったのですが、

それは文字通り養女であって妻としたわけではありません(妻にするのは4年後のことです)。しかし、紫の上

を将来の理想的な伴侶とすべく育てていく暮らしは源氏にとって、他の何にも代えがたい“心の拠り所”となっ

ていったのです。それにもかかわらずと言うべきか、だからこそと言うべきか、源氏の“好き者(ドンファン)”

振りがこれと時を同じくして発揮されていくのです。藤壺の宮との不義や末摘花への夜通いにとどまらず、あの

好色な老女、典侍(ないしのすけ)にちょっかいを出したり、右大臣家の娘(朧月夜おぼろづきよ)と関係を持

ったりしてしまうのです(この少し前には空蝉や夕顔への夜通いがあり、そもそもそれ以前から六条御息所(ろ

くじょうのみやすどころ)という運命的密通相手もいたのです)。そしてその一方で、正妻である葵の上との仲

相変わらず冷えたままなのです。‥‥紫式部が稀代の色男貴族を描こうとしたのは間違いありませんが、この

うなシチュエーション、筋書きにした意図はやはり不明であり、紫式部はこのように描きたかった、これが描

易かったからであろうと言う意外にありません。

 そして先回りして言えば、藤壺の宮との不義は発覚しなかったものの、朧月夜との不義はやがて発覚すること

となり、その後源氏が須磨~明石へと流れていく不遇時代への予兆が示されるのです。

その朧月夜との逢瀬はこんな様子で書かれています。‥‥源氏が20歳の春、宮中で桜の宴が催されたある夜更け、

酔心地である殿内を徘徊しながら‥こんな夜は男と女の過ちが起きそうだ‥などと思っていると、「朧月夜に

似るものぞなき♪‥」と和歌を誦じながら若い女が歩いてくるではありませんか。源氏は思わずうれしくなり、

女の袖をつかんで抱き上げると廂の間に連れ込んで戸を閉めてしまったのです(どういう手の早さでしょうか)。

女はふるえて呆然としながらも「人を呼びますよ」と言うと、「私のことをとやかく言う者などいないのです、

むだなことですよ」という声で源氏の君と分かると気が緩んでしまい、大人しくなってしまうのでした。

‥‥ややあって、そしてその時に交わした歌は

源氏《深き夜のあはれを知るも入る月の おぼろけならぬ契とぞ思ふ》

(あなたが夜更けの風情に感じ入られるのも、入り方の朧月を愛されてでしょうか。その月に誘われてやって来

ましたこの私にめぐり会うのも、ひとかたならぬ縁ゆえと思います)

さらに、「やはり名前を教えて下され。このまま別れてしまいたくありません」と言うと、

朧月夜《うき身世にやがて消えなば尋ねても 草の原をば問わじとや思ふ》

(不幸せな私がこのままこの世から消えてしまったら、名乗らなかったからといって、あなたは草の根を分け

てでも私を尋ねようとはなさらないのでしょうか)と返したりするうちに人の声がし始めたので、扇を交換した

だけで(契を交わしたしるし)源氏は立ち去ったのでした。

‥‥何とも刹那的な恋ですが、こんなことを繰り返していくのが源氏物語だと言って言えないこともないのです。

‥‥求めても求めても決して満たされることのないものを求めていく‥‥やはり、始めの所で述べました<帚木

ははきぎ(ほうきぎ):遠くからは見えるが近寄ると見えなくなる木>というテーゼが通奏低音のように流れて

いるように思うのですが‥‥。

 

<写真は昨年行った、常陸那珂(ひたちなか)海浜公園のコキア(ホウキギ)です。遠くでも近くでも良く綺麗に見えましたがね>

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コメント

こんにちはsun
やっと少し落ち着いたお天気に成りました(*^_^*)

源氏は何と言っていいのかです(^_^;)
そう思うと、紫の上の事を4年待つ事が出来たのは奇跡なのかな(*^_^*)
待ったとしても14歳ですが(^_^;)

コキア!!覚えています♪皆空さんのブログを見て、
通勤途中の民家のお庭にコキアがあるのに気が付きました~
遠くから見ると綺麗ですよね♪車に乗っているので目の前には出来ませんけれど
実際はどんな感じなのでしょう~たわしっぽい?(笑)

こんにちは。
真っ赤なホウキギは目の前で見ると、炎みたいですよ。
乾いたホウキギを夜燃やしたら本物の大きな炎になる
でしょうから、これも見たいものですね。だけど、そんな
見ものは聞いたことありませんから、実際は燃えないの
かも知れないですね。(ノ∀`)アチャーsweat01
源氏が紫の上を本当の妻にするのは、源氏の目で見て
十分女性らしくなった(精神面、肉体面で)時のことです。
昔の基準では14歳はとんでもなく若過ぎるわけではない
ということでしょうね。それも4年の養育期間あればこそな
のでしょうが。‥‥私にそれができるか想像すると、ウ~ン
十分な人生経験と、経済力と、‥‥そう、“人間力”が具わ
っていればできそうな気がします。(妄想に近い願望です
coldsweats01

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